潮の匂いがする風が、
八幡坂を吹きぬけていく。
あの坂の上から見おろした海は、
いつも静かに、
わたしを迎えてくれる。
かもめが鳴いた。
遠くの水平線が光った。
どこかで誰かが、
わたしの名を真似て呼んだような気がした。
でも、わたしの名前は、
あの波とともに育った。
誰かに勝手に使われても、
本当の名は、ここにしかない。
漁火が灯る夜の海、
なぜかあの光を見ていると、
ほっとするわたしがいた。
わたしの記憶も、鮮明に蘇る。
誰にも知られずに、大切にしてきたもの。
わたしを模倣する人がいたとしても、
わたしに成り変わることはできない。
その真似した言葉には、悪意すら感じられ、
むすびを解こうとする必死さが垣間みえ、哀れに思う。
あの波の音を、
あの冷たい風の匂いを、
この胸で知っているのは、わたしだけ。
けあらしの海に、
静かに立ちのぼる白い息。
冬の朝にだけ見える祈りのような、
ほんとうの風景。
それを胸に宿してきたのは、
まぎれもなく、わたし。
誰にも知られずとも、
そこにあるのはわたしの深淵だ。
誰かに寄り添うように、
でも深く、
わたしは石のように、
このふるさとの上で静かに矢を放つ。
名と、声と、想いを守るために。
たとえ誰かに呼ばれても、
わたしは振り返らない。
わたしは海へ、
火の灯るほうへ向かう。
ただ戻るためではない。
忘れかけていた、
わたし自身を取り戻すために。
あの水平線の向こうに、
誰にも奪われない、
わたしだけの風景がある。
かもめの鳴き声が、
今日も、海風を切り開きながら、
広い空を自由に舞う。
潮の匂いを纏い、波の歌を聞き、
はるか遠い水平線へと翼を伸ばす。
その声は、
心の奥底まで響きわたり、
静かな力となってわたしを包み込む。
今日は散文詩を書いてみました。
はじめての挑戦でしたが、わたしの思いが溢れています。
散文詩とは、心の動きや風景を、自由に美しく言葉で描いた文章です。
ふるさとの風景は、美しく力強く、わたしを包み込んでいます。